土手から見た、城
夕方、公園で友達と遊んだ帰り道のことだ。
自転車で住宅街を抜けて、いつもの近道を走る。坂を上ると、土手の上に出る。
土手の上から、川の向こうに、城が見えた。
ディズニーランドの城だ。地元の子供にとっては、観光地でも夢の国でもない。ただ、土手の向こうに、いつもそこにある景色だった。
夕暮れの空に、城のシルエットが浮かぶ。空は橙色から、薄い紫に変わっていく。
風が頬を撫でる。少し肌寒い。友達が「帰ろう」と言って、自転車を漕ぎ出した。
私は、もう少しだけ土手の上にいた。
城は、いつも変わらずそこにあった。明日も、明後日も、そこにあるはずだった。それが当たり前で、特別なものだとは思わなかった。
大人になって、東京を離れる人や、東京に憧れる人の話を聞くようになった。
そのたびに、土手の上のあの景色を思い出す。観光ガイドには載らない、地元の子供だけが知る、夕暮れの城。
東京には、住んだ人にしか見えない景色がある。
それは特別な場所じゃなくて、ただの帰り道に、ある日ふと見えるものだったりする。
このメディアでは、そういう景色を残していきたい。